海 へ 行 こ う !




目を覚まして最初に感じたのは潮の香りだった。



いつもと違う雰囲気に、俺は寝起きの頭を一生懸命働かせて辺りを見渡す。
高い天井にオフホワイトの壁紙。よく映画とかで見るようなでかい扇風機みたいなのが天井からぶら下がっていて、それがゆっくりとした速度で回っている。
もそっと起き上がって隣のベッドを見ると、誰かが寝ていたらしい跡がシーツの皺でわかる。
裸足で床におりて窓の外を見た途端、俺は

「……………すご……」

と思わず呟いてしまった。


目の前には真っ青な海と真っ青な空。キラキラした水平線が遠くまで見える。そしてその手前には小さいけど砂浜があり、人一人いないのを見て啓介さんがプライベートビーチだと言っていたのを思い出した。

「………さすが金持ちだよな…」

また少しだけ気持ちが落ち込みそうになるが、ふいに聞こえてきた声で気がそがれた。

「あ、起きたか。はよ、拓海」

そう笑いながら近づいてきた啓介さんが俺を抱きしめて唇にキスを落とす。

「おはようございます………早いですね、啓介さん」
「早いって……もう9時回ってんぞ?」
「え?そ、そうなんすか??」

告げられた時間に俺がびっくりしていると啓介さんはくすくすと笑った。その啓介さんの格好が、前を全開にしたアロハシャツに短パンといういでたちなのに気がついて、俺は顔を見上げた。

「メシ簡単に作ったけど食うか?」
「へっ、啓介さんってメシ作れるんですか?」
「いや、作るっても………目玉焼きとかサラダとかそんなモンだけど」

そんな大層なモンは作れねぇよ、と苦笑しながら、啓介さんは俺の手を引いて部屋を出て行った。




それからメシを食べた俺達は水着に着替えて(啓介さんが履いていたのはすでに水着だった)、パラソルやシートにタオル、その他色々入ったクーラーボックスを持って目の前のビーチへと向かう。
すでに啓介さんは海に入りたくてうずうずしているらしく、早足で先に砂浜に下りて行く。そんな背中を見つめながら、子供みてぇ……と思いながらつい笑みを浮かべていると、先に砂浜についた啓介さんがアロハシャツを脱いで海パン姿で穴を掘り始めている。

「これだけ天気いいと、すげー日に焼けるな」

啓介さんが楽しそうにそう言いながら穴にパラソルをさして広げ、手際よくシートを広げていくのを俺はボケっと突っ立ってただ見ているだけだった。

「ほら、暑いから中に入ってろよ。俺、先にひと泳ぎしてくっからさ」

そう言うと啓介さんはぐっと体を伸ばして海を見つめる。しなやかな筋肉が太陽を浴びながら伸びる姿に、俺はわけもなくドキっとする。すでに何回か大学の友人とも海に行ったらしく、少し小麦色に日に焼けた体は眩しいくらいだ。いつも抱かれる時、啓介さんは俺の体を綺麗だと言うけれど、俺にしてみたら啓介さんの体の方がよっぽど綺麗だと思う。
そんな体を太陽の下に惜しげもなく曝け出して啓介さんはダッと走って海に飛び込んでいった。

「っはーっ!!気持ちいいぜ、拓海!!」

パシャッと海から頭を出し、髪を両手でかきあげながら早くこっちにこいよー、と笑う啓介さんにまたドキっとした。



真夏の太陽のような笑顔に俺は魅了される。そして着ていたTシャツを脱ぐと、俺も海へと歩き出す。



サクサクと踏む砂が熱い。そういや海なんて、去年茂木と行った以来だなーとか思いながら海に入っていくと、いきなりグッと腕を引っ張られて思わず海に潜ってしまった。

「ぷっ、は………な、何すんですかまったく!」

バシャっと顔を出し、水がしたたる髪をかきあげながら啓介さんを睨むと、じっと見つめてくる視線に思わずドキっとする。

「な、何すか…………」
「今………何か考えていただろ?」
「へっ?別に、何も………」

まさか女と海に遊びに行った事を思い出してたなんて言えるはずもない。でも啓介さんは俺を見つめたままそっと顔を傾けてきて、俺は思わず目を閉じてしまった。 海水に濡れた唇が重なる。啓介さんの舌がチロっと唇を舐めてきて、思わず唇をうすく開くとすかさず舌が入り込んできた。そしてそのまま俺の舌を捕えて絡みだしていく。
しかしいつの間にか海水の中で腰にまわされた手が、愛撫するような動きで背中に滑っていくのに気がついた俺は、慌てて唇を離す。勢いで繋がった唾液がぷつりと切れると啓介さんは自分の唇をペロっと舐めた。

「…………俺以外の事考えてんじゃねぇよ…」
「なっ、………そんなんじゃないですって」

これ以上くっついているとヤバくなりそうだから慌てて体を離そうとすると、逆に腰をぐいっと引き寄せられてしまった。密着した腰から海パンの薄い布地越しに萌し始めた熱を感じて、ビクンっと震える。

「ちょっ………こ、こんなトコで………っ…」
「だって………昨日だってお預け食らってるしさぁ…………」


今のお前の水着姿見てたら、ますますムラムラきちまった。


そんな事を言いながら啓介さんの唇が耳の裏側へと滑っていく。耳たぶを唇で食み、その下の首筋へと舌が這い始めると俺はぎゅっと肩を掴んで頭を振った。

「誰か、に見られ………っ、ァ……」
「誰も来やしねぇよ………俺達しかいないから―――――

大丈夫だって、と啓介さんが囁いて耳の中に舌を差し入れるとゾワゾワと肌が粟立つ。海の中の啓介さんの手が背中や腰を這うと俺はたまらなくてよけい体にしがみつく。すると啓介さんのいきりたつペニスの感覚に腰が疼いて、ますます悪循環になってしまう。
やがて啓介さんの手が海パンの中に入り込み、俺のペニスをやわやわと握ってきた。いつもと違う、海水の中での愛撫に俺はぎゅっと唇を噛みしめて声を堪える。すると啓介さんの空いている手が頬に触れて親指が唇をなぞってきた。

「声聞かせてよ――――――拓海の感じる声、聞きたい」

とろけそうな甘い声で囁かれると俺はもう金縛りにあったように、だらしなく唇を開いてしまう。

「ん………っ、ァ、ふ…………」
「すげぇ……イイ声……」

いつの間にか入り込んだ指が俺の舌をこねくりまわす。だらだらと口端から唾液が伝い落ちるのにも構わずいじりまわす啓介さんの指を、海水でしょっぱいのにも関わらず俺は気がつけば音をたてて吸いついていた。 ふと自分のしている事に恥ずかしくなった俺は薄く目を開けて啓介さんを見ると、欲を湛えた目で見つめていて、体がカッと熱くなる。 啓介さんの手は相変わらず海パンの中で俺のペニスをいじりまわしていて、海の中だとは言え段々と立っているのも辛くなってきた。


このままだと膝がカクンと崩れて溺れてしまいそう―――――


「啓介さ…………」

指を離させ掠れた声で呼ぶと、啓介さんは「ん〜……?」と首を傾げながらも口元には笑みを浮かべている。




その少し意地悪そうな笑みにムカついて唇に噛みついてやりながら。


「…………早く……」


俺は啓介さんの熱いモノを催促した。








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