こんなキスを、俺は知らない 2

数十分後。
思ったより早く到着したFDに乗り込んで、連れて行かれた先は、秋名湖だった。
クルマを停めたものの、啓介はエンジンも切らず、じっと運転席に座って黙ったままだ。しかし何かを言いたそうな雰囲気は感じるので、拓海も口を出さずに目の前の景色を眺めていた。
フロントガラス越しに見える秋名湖は、月の光がゆらゆら映り込み、存外にきれいだ。今、月が出ていてくれて、本当によかったと思う。きらめく湖面を見つめていれば、こんな息苦しい時間もなんとかこらえることができた。
それにしても、こんなところに二人で来るなんて、デートみたいだな。ぼんやりのんきなことを考えていると、ついに啓介が口を開いた。

「……本気になっちまったんだよ」

急にそんなことを言われて、拓海は面食らった。

「…は?」

意味がわからない。本気って、何の話だろうか。
啓介は大きく舌打ちすると、視線を秋名湖から拓海に移した。

「だーかーらッ、藤原のことを好きになっちまったんだよッ!!」

怒号のようにそう言われて、拓海は咄嗟に理解できなかった。
十回ほど瞬きしたあたりで、やっと“好き”という言葉が頭に染みてくる。

「……え、えっ、えええ!!?」

大声を上げると、啓介が悔しそうな顔をしてハンドルに突っ伏した。

「…俺だって、藤原のこと、ずっと意識してたんだよ…でも、それが恋愛感情だって、認めちゃまずいと思って…」
「そ、そんな…」

バカな、と心の中で続けると、啓介がキッと睨んできた。

「藤原だって、俺が好意持ってんの、ほんとは勘付いてたんじゃねーのかよ?」

そりゃあ、他のメンバーよりも親しくしてくれてるなとか、やけにボディタッチが多いようなとか、そういうふうには感じていたが。だってそれは、友達に対するものだとばかり思っていたから。
拓海が「それは」とか「でも」とか口ごもっていると、啓介は長い長いため息を吐いた。

「…Dが終わって距離置けば、こんな気持ちも忘れるかなって思ってたけど……おまえがあんなことするから」

あんなこと。
そう言われて、拓海は自分がしたことを思い出し、耳まで真っ赤になった。
やっぱりあのときは酔っていたと思う。じゃなきゃ、あんな恥ずかしい行動、とてもできない。

「……すいません」

思わず謝ると、啓介は「まったくだ」とバケットシートに深く座って、腕を組んだ。

「責任とってくれんだろーな」
「へ? ……責任?」

責任ったって、ハグをなかったことにはできないし。そんなすっとぼけたことを考えていると、それがわかったのか啓介が「だああ!」と叫ぶ。

「だーかーら!」

そこまでは強い口調だった啓介の態度が、急にしおれていく。
あーとかうーとか言ってから、絞り出すように一言。

「……俺と付き合えってことだよ……」

インパネの明かりに照らされている啓介の顔が、暗がりでもわかるほど、赤い。
拓海はまったく想像していなかった展開に、終始ぽかんとしていた。

「……」
「……」

そのまま沈黙が続いたが、やがて、

「…ぷっ」
「……くくっ…」
「あはははははっ!」
「はははは!」

どちらともなく、笑い転げた。

「啓介さんのそんな弱気そうなとこ、初めて見ましたよ!」
「うるせーな、そもそもおまえが告るだけ告っといて逃げるから、ややこしくなったんだろ!」

笑いながらそんなやりとりをして、拓海はやっと、今の出来事が本物なんだと思えてきた。
啓介は、嘘をついているわけでも、無理して言っているわけでもない。真剣そのものだと、態度で伝わった。

「この一週間、すっげー考え込んで、頭痛かったんだからな」
「そりゃすいませんでしたね」
「なんだその、可愛くねー言い方。『ぎゅーってしていいですか』って聞いてきたときの藤原、鼻血出るほど可愛かったのに」

恥ずかしいことを掘り返されて、拓海は「わーっ!」と頭を抱えた。

「それはもう言わないでくださいッ!! 恥ずかしくて死ぬ!!」
「はー? ……『ぎゅーってして、いいですか?』『啓介さんのことが好きだったんです』?」
「うわあああ!」

啓介が面白がって何度も言うので、拓海は耳をふさいでぶんぶん首を振った。
そんなふうに続いた言い合いがふと止まると、啓介が安心したように息を吐き出した。

「…よかった。あれは冗談ですとか言われたら、どうしようかと思ってた」

自信過剰の啓介さんらしくない、とでも茶化そうかと思ったが、啓介が本当にほっとしたように言うので、そこは黙っておいた。
啓介が狭い車内で両腕を上げ、うーんと伸びをする。その様子になんとはなしに顔を向けると、はたと目が合う。
しかも、結構な至近距離。

「あ…」
「……」

キスできそう。
真っ先に、そう思った。
しかもそれはお互い様だったらしく、しばらく黙って見つめ合ってしまう。
しょうもないほど、ドキドキする。

「……まずいな」

同意を求めるような口調で、そう言われた。

「…まずいですね」

頭が、くらくらする。ただ近くで見つめ合っているだけなのに、それだけで溶けてしまいそうだ。

「キスして、いい?」

やけに可愛い聞き方をされて、拓海は胸がきゅんとした。
何か答えようと口を開きかけたものの、何を言えばいいのかわからず、結局小さく頷いた。
それを合図に、目を閉じながら、啓介の顔が近付いてくる。拓海も応えるように目を伏せて、自然と引き合うように顔を寄せた。
唇が、触れる。
途端に二人はびっくりして、お互いすぐに離れてしまった。

「……」
「……」

キスしてしまった、と、二人は同時に目で語る。
拓海は、まるで電流が全身を駆け巡るような感覚に、衝撃を受けていた。
キスは初めてではないが、こんなのは知らない。ドキドキするとか、そういうレベルじゃない。股間直撃だ。
この人は、運命の相手だ。ただ唇を触れ合わせただけなのに、そう直感するような、そんなキスだった。
二人はしばらく見つめ合い、やがて無言で、また唇を寄せた。ちゅ、ちゅ、と軽いキスばかりをしていく。それだけでも、下半身が大変なことになるほど、気持ちよかった。
しかしそれもだんだんと物足りなくなってきて、拓海は迷いに迷った挙句、雰囲気に負けて、啓介の上唇を舐めた。啓介の反応が気になってそっと目を開けると、びっくりしたような瞳とぶつかる。

「…意外。藤原、積極的」

唇が触れ合ったままそう言われて、くすぐったさにぞくぞくする。気持ちよすぎて眉根を寄せて情けない顔をしていると、啓介がとろんとした目で見つめてくる。
あんた一体なんて顔してんだ。拓海は心の中で毒づいたが、もう喋る気力もない。こういう状態を、腰砕けとか、骨抜きとか言うんだろう。
止まってしまったキスに、拓海はほとんど無意識に舌を挿し込んだ。すると、啓介がよしきたとばかりに、すごい勢いでそれを絡めとった。

「んんっ!」

舌が触れた瞬間、まるで導火線に火が付いたかのように、二人のキスは激しくなった。ざらつく舌同士を重ね合い、舐めとり、歯列をそっとなぞっては、角度をつけてまた舌を絡める。
なんだか、ハリウッドのキスシーンみたいだ。拓海は霞む思考でそう思った。

「……っ…ん、ぅ……」

めまいがして、全身の力が抜ける。
ずっと想い続けていた人が、自分を求めて、キスをしている。それだけで、気を失いそうならい、頭がとろとろになる。
はっきり言って、このままキスだけでイッてしまいそうだ。

「これ…やばいって…」

低くかすれた声で、啓介が呟く。それはほとんど独り言だったようで、すぐにまた唇が触れる。
そんな色っぽい声出さないで欲しい。とか思いながらも、自分の口からだって、とんでもない声が漏れている。

「ん…ぅ、はぁ……ん……ん…」

出したくて出しているのではない。勝手にあふれ出てくるのだ。止めたいのに、止まらない。
このキスは、危険だ。そう思うのに、身体が一切やめようとしない。言うことを聞かない。
まるで別の生き物のように、啓介の唇を求めている。
不意に、シャツの中に、体温が潜り込んで来る。

「わっ!!」

突然のことで驚いて、拓海は派手に全身を跳ねさせた。

「わ、悪ィ」

キスは止まり、啓介が驚いた様子で顔の横に両手を広げている。

「あぶねー…今、完全に無意識だった」

バツが悪そうに頬を指で掻きながら、とても困ったような顔。逆立った髪の毛とは裏腹に、その表情はなんだか情けない。
どうしても、唇に目がいってしまう。長いことキスをしたからか、さっきより少し赤い気がする。

「ごめん…これ以上やってたら、俺、おかしくなりそうだわ」

啓介が顔を逸らしながらそう言い、拓海は寂しい気持ちになった。不用意に触られるのは少し怖い気もするが、キスはもっともっとしていたい。
だって、こんな気持ちいいキス、初めてなのだ。

「……ダメなんですか?」

気が付くと、拓海は思ったままを口にしていた。

「え?」
「おかしくなったら、ダメなんですか?」

少し俯きがちに、啓介を見る。すると鳩が豆鉄砲を食らったような顔。

「ダメなんですか…って……藤原こそ、ダメじゃないのかよ? おまえ、俺の言った意味わかってるか?」
「わかってますよ。なし崩しでセックスするかも知れない、ってことでしょう?」

まさかそんなにストレートに言われると思わなかったのだろう、啓介は目に見えてうろたえた。

「…言っとくけど、もしそうなったら、挿れるのは俺だぜ」
「ああ…そうか。でも別にいいですよ」
「はあ? おまえな…男にケツ掘られるんだぞ? ほんとにいいのかよ?」
「だって、啓介さん、俺のこと好きって言ってくれたじゃないですか」
「そりゃそうだけど…」

うだうだ言い出した啓介に、拓海のほうが不安になってきた。キスまではありでも、男とセックスするなんて、本当は気が進まないのかもしれない。

「……啓介さんは、俺と、したくないんですか?」

もう引き返せないほど興奮しているのに、このまま帰れと言うのか。拓海は泣きそうになりながら啓介を見た。
拓海だってけして迷いがないわけではない。しかしだからこそ、今の勢いのまま突っ走ったほうが、怖くない気がするのだ。それに。

「…先延ばしして、後からやっぱ無理とか言われるの…嫌だし……」

心細そうに拓海が言うと、啓介は苦々しい顔をして、突然慌ただしくギアを動かした。

「うわっ!?」

クルマが急発進したせいで、シートベルトをしていなかった拓海はシートの上で派手に転がる。

「け、啓介さん? どこ行くんですか?」
「バカなこと聞いてんじゃねーよ。セックスできるとこなんて、決まってんだろ」

ヤンキー丸出しの、忙しない喋り方。拓海がそっと啓介の横顔を見ると、どこか焦ったような、猛々しい表情をしていた。
ふと視線を下げてみれば、股間が不自然なほど盛り上がっていて。

「………」

恥ずかしくなって、拓海は慌てて目線をフロントガラスの向こうに移した。それから啓介に悟られないように、自分の下半身にそっと触れてみる。するとそこは啓介と同じような状態で、それどころかずいぶん濡れている。
さっきのキスだけで、お互いこんなか。情けないような、嬉しいような、悔しいような複雑な気持ちだが、無性に幸せを感じた。


会話なんて全くないまま、明らかにそれとわかる建物の敷地内に、FDが滑り込む。
こんな目立つクルマでいいのかな、なんて思っていると、クルマを駐車させた啓介が、いきなり腕を掴んできた。

「な、んっ…」

なんですか、と言うはずだった言葉は、啓介の唇にさらわれてしまった。
突然腕を引かれて、歯がぶつかるようなキス。啓介は顔に角度をつけて、深く深く唇をつないだ。
少し落ち着きかけていた熱がぶり返して来て、拓海は頭が真っ白になる。そのまま本能に任せるように、自分からもキスを返した。
このまま駐車場で事に及んでしまいそうなほど、それはそれは、熱くて濃厚なキス。どのぐらいの時間そうしていたのか、身も心もトロトロに溶けてしまったころ、啓介が名残惜しそうに唇を離した。唾液が、糸を引く。

「……あんまりエロい顔してっと、今すぐここで犯すぞ…」

ぽーっとした目で啓介に見つめられ、拓海は困ったように眉根を寄せた。

「啓介さんこそ…すごい顔してますよ」
「マジ?」

拓海は無意識に手を伸ばし、啓介の頬に触れた。その体温に引き寄せられるように、お互いがまた、顔を近付ける。
しかし、二人同時に、ハッとしたように身を離した。

「これ以上キスしたら、マジで止まんなくなっちまう」
 
色っぽい顔で目を眇める啓介を見て、拓海は背筋がぞくりとした。
早く、もっと肌を触れ合わせたい。


黙ってクルマを降りると、啓介が少し早歩きで先に行く。ただでさえコンパスの差がある拓海は、慌てて小走りで追いかけた。
やっと追い付いたときにはもうフロントで、そこには内装写真がずらりと並べられたパネルが堂々と出迎えてくれた。部屋の写真の横にそれぞれボタンが付いていて、光っているところが空室のようだ。
俺が昔行ったホテルとは違うなあ、と拓海が思っている間に、啓介は相談もなく勝手に部屋を決め、またさっさと歩き出してしまった。
啓介が選んだ部屋はフロントから一番近いところだったようで、誰かに見られるのではという心配もすぐに消え、拓海はほっとした。ドアを開けてくれた啓介に促され、先に部屋に入ると、小奇麗な内装が目に入る。
が、それはすぐに消えてしまった。

「んむっ」
 
ドアの閉まる音と同時に、ぐるんと身体が揺れて、背中に冷たくて硬い感触が打ちつけられる。そしてそれとは対照的に、正面からはあたたかい体温と、熱い唇がぶつかっていた。

「ん…」

ドアに押しつけられた拓海は、苦しそうに目を閉じる。キスが始まって数秒だというのに、もう息ができない。この背中にあるドアが閉まった瞬間、ここが二人きりの世界だと思うと、どうしようもなく興奮した。

「はっ…ん、……っ」

唾液の混ざる水音と、荒い息遣いの音が響く。
舌を絡めれば痺れるような快感が全身を駆け巡り、柔らかい唇を触れ合わせていると、とんでもなく愛しい気持ちになる。
啓介が下半身をすり寄せて来て、お互い痛いほど硬くなってしまっていることに気付かされた。

「けい…すけ…さん」

ちょっともう、我慢できない状態だ。拓海が懇願するように啓介を呼び掛けると、艶っぽく細められた瞳と目が合った。

「…いっぺん、抜いとく?」

掠れた声が、腰に直接響くほど、色っぽい。
拓海はなんとか小さく頷くと、ずるずるとその場でしゃがみこんでしまった。それを追うように、啓介もそこに座り込む。
啓介の腕が伸びてきて、拓海のTシャツの裾がするりと掴まれる。脱がそうとしているのを察し、拓海はぼんやりしながら、軽く両腕を上げた。すぽんと簡単に脱がされて、拓海も吸い寄せられるように啓介の服の裾を掴み、同じように脱がせる。それから他の着衣も慌ただしく脱がせ合い、あっという間に一糸まとわぬ姿になってしまった。
すると自然、お互いすっかり勃ち上がっているそれに目がいって。

「……」
「……」
 
でかい、とか、かわいい、とか、それぞれ感想は飲み込んだ。
啓介がそっと拓海のそれに触れると、ぴくりと小さく震えて、反応を示した。

「…こんな、なってたんだ」

ほんの少しのキスだけしかしていないのに、拓海は先走りの蜜をこぼし、すでにはちきれそうだ。啓介に感心したように言われて、拓海は恥ずかしくなる。

「け、啓介さんだって」
 
言い返しながら、啓介のそれを握りこむ。啓介だってガチガチで、拓海と同じ状態だ。

「うん」
 
啓介はただそれだけ言って、拓海の性器をゆるゆると扱き始めた。

「っ…!」

自分で与える刺激とはあまりに違うそれに、思わず声が出そうになる。歯を食いしばってやり過ごしてから、拓海も啓介のものを同じように手に包んで扱いてやった。

「……はっ…」

啓介も、ときどき短く息を吐く。こんな拙いことでも感じてくれているかと思うと、なおのこと興奮した。
しかし、次第に啓介の手の動きが速くなり、拓海はあまりの快感に、啓介への愛撫がおろそかになっていく。そのまま達してしまいそうな波がやってきて、拓海はぶんぶん首を振って、啓介の手に自分のそれを重ねた。

「待っ…て…」

荒い息をする啓介が、ぎらりと睨みつけてくる。なんで止めるんだと言いたげだったので、拓海は慌てて下半身をすり寄せた。

「い、っしょ、に」

肩で息をしながら言うと、啓介が驚いたように目を見開き、苦しそうに眉根を寄せる。

「……おまえ、エロ過ぎ」

ぶすっとそう言って、啓介は拓海の足を大きく開かせ、にじり寄り、性器同士を触れ合わせた。

「あつ…」

啓介が呟いて、拓海の手をとる。それを二人分の性器を包み込むように誘導し、その上から自分の手も重ねた。
ゆっくり扱き始めると、どんどん湿ってきて動きも滑らかになる。

「うっ…あ…」

拓海が目を細めながら快感に耐えていると、ふと視線を感じたので、啓介のほうを見た。すると、じっとこちらの顔を見つめている。

「見、んな…!」

恥ずかしくてそう言ったら、ふっと笑われた。

「見るよ。見てねーともったいねぇもん。こんなエロい顔した藤原」

そう言う啓介だって、果てしないほどエロい顔をしている。しかしそれを口にできるほど、今の拓海には余裕がなかった。
それでも悔しかったので、拓海は啓介に思いっきりキスを仕掛けた。

「んっ」

一瞬驚いた啓介も、すぐ嬉しそうに舌を絡めてくる。柔らかくて生温かい感触がして、拓海は一気に昇りつめた。

「んんっ…ん…!」

自ら追い詰めるように強く握りこみ、激しく扱く。同じ刺激を受ける啓介も、キスする唇の動きが鈍くなる。

「ふじ、わらっ…!」

低い声に名前を呼ばれたその瞬間、拓海はあっけなく精を吐き出した。
全身の力が抜け、性器からふっと手を離そうとすると、その上から啓介の手が強く力を込めてくる。

「んあっ!」

達したばかりで敏感なそこに、さらなる刺激がやってきて、拓海の肩は跳ね上がる。しかし啓介はお構いなしで、ものすごい勢いで二人分を扱き始めた。

「け、いすけさっ、やめっ……!」

まだ芯の残った状態だった拓海の性器が、強引な快感を与えられ続ける。頭の中で火花が散り、もう死ぬ、とまで思った瞬間、生温かいものがぶちまけられた。

「あ…」

今度は、啓介が吐精していた。

「……はー……」

啓介が長く息を吐き出し、やっと手が解放される。
やっと落ち着いた、と拓海がドアに背を預け息を整えていると、啓介が精液まみれの手で、ぐいと拓海の腕を掴んだ。

「え」
「ベッド、行くぞ」

今しがた行為を終えたばかりだと言うのに、この人は何を言っているんだろうか。拓海が信じられないという顔をしていると、

「いや、先に風呂か」

なんてズレたことを言う。

「いや、ちょっと、休憩…」

そんな拓海の言葉など気にも留めず、啓介は拓海を引きずるように風呂場へと直行した。

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