Never Forget Me





3.もう一度 第8話(Side T)





部屋に入り、奥へ進もうとして後から来る気配がないのに気がついて後ろを振り返る。ケイスケさんは俯いたまま玄関の前に立ちすくんでいた。

「ケイスケさん………」
「………」
「………抱いて…?俺に、アンタを、」


思い出させてよ。


近寄って下からケイスケさんの顔を覗き込みながらそう呟くと、ケイスケさんはグッと手に拳を握ってから顔を上げる。やっと目を合わせてくれて、俺は両手でケイスケさんの頬を包み込むとそっと唇をケイスケさんのそれに押しつけた。
そろそろと舌を差し出すと、ケイスケさんの唇が薄く開いて招き入れてくれる。俺の肩を抱き寄せ頭の後ろに手をやり、顔を傾けて本格的に舌を絡めだしてきた。

「んっ…………」

無理矢理抱かれてから初めてだ、と思った。こんなに優しくて熱いキス。
絡みあった舌からトロリと溶け出してしまいそうな口づけに俺は軽く眩暈を覚える。
次第に俺達はキスに夢中になり、ケイスケさんのもう一方の手が俺の腰にまわされぐっと前を押しつけてくる。ジーンズの硬い生地越しでもはっきりとわかるケイスケさんの熱の塊に、俺はズクンと自分の体の奥が痺れるのを感じた。

今までも散々体を開かされて熱を煽られたけど、最初からこんなに欲しい、と感じてしまうのは初めてだった。
夢中で絡んでくる舌の動きに次第に酸素が足りなくなってきて、俺はふいっと顔を背けて荒く呼吸を繰り返す。そんな俺の口端に伝うものをケイスケさんの舌が舐め取るから、俺の体はまたビクンっと揺れてしまう。

「藤原……」


そんなせつない声で呼ばないで。俺は、もう逃げないから。


そうは言えなかったけれど、俺はそっと手を繋いでベッドへと誘った。ベッドに腰かけるとケイスケさんは俺の手を握ったまま目の前に立った。そんなケイスケさんの手を引っ張ると大きな体がガクンとしゃがみこんで俺の足の間に入り込む。

「………ケイスケさん……」
「………いい、のか?」

この期に及んでいまだそんな事を言うケイスケさんに俺はさすがにカチンとくる。

「いい加減にしてくださいよ………ココまでしないと、わかりませんか?」

そう言うと俺は手を離させ、ジーンズのボタンを外しジッパーをジジ…と下ろす。もうすっかり熱を帯びて勃ちあがってしまったそれを下着の中から出してケイスケさんの手に触れさせた。ケイスケさんの手がビクッと揺れるが握ろうとはしてこない。

「………俺…今のキスでこんななんですよ………?」
「藤原………」
「………ココまでさせといて、やめるなんて事するんじゃ―――んんっ、」

俺の言葉を遮り、ケイスケさんの唇が重なってきた。さっきとは違いさらに熱を引き上げる激しい口づけに俺は意識が飛びそうになりながらも、懸命にその動きに答える。

「っ、はぁ………」
「ふじわ、ら……ぅ………」

くちゅり、と濡れた音をたてるキスの合間に、かすれた声で呼ばれる名前に俺はまた腰に疼きが走る。それに気がついたケイスケさんは唇を離し、今度はしっかりと握っている俺のペニスに顔を寄せて口づけた。

「っ、あぁっ―――!」

それだけでピクンとペニスが反応し、白いものがだらしなく垂れ落ちる。それを唇で掬い取ったケイスケさんは根元を握りしめて先端の割れ目を舌でグリグリと擦りだした。その感触に俺はケイスケさんの髪をくしゃりと握って背中を反らせてしまう。

「んっ、ぁ―――そ、な………っ……」

今までもそんな事はされなかったわけではなかった。けれど、今はそれ以上に感じてしまう。ケイスケさんの熱い舌が蠢き、絡みつく度に俺はシーツをぐっと握りしめて腰をみっともなく揺らしてしまってた。





やがて口元をベタベタにしたケイスケさんが顔をあげると、俺をベッドに押し倒して器用に衣服を剥ぎ取っていく。そんなケイスケさんを見つめながら、俺はただただされるがままでいた。
脱がし終えると、ケイスケさんは自分の服も脱ぎだす。次々と現れるケイスケさんの裸体は、相変わらず引き締まって均等に筋肉がついている。

「……綺麗、すっね………」

俺の体をベッドに引き上げ、隣に寝転がったケイスケさんの隆起した二の腕の筋肉に手を這わせると、その手を掴んでベッドに押しつけながらケイスケさんがくすっと笑う。

「そうか?………俺は藤原の……、」

そこまで言ってふと口を噤んだケイスケさんの言葉を促すように、俺はもう片方の手で頭を引き寄せてケイスケさんの唇をチロチロと舐めた。積極的な俺の行動にケイスケさんの目が見開かれ、それから少し照れたように視線を逸らした。

「俺の………何ですか?」
「………」
「………言って、下さいよ」
「―――藤原のが………好きだ」

観念したのか照れたように呟いたケイスケさんに、笑みを浮かべてキスを強請るとまた唇を重ねてきた。脅されて抱かれている時にはなかった甘い睦言と繰り返されるキスに、俺はすっかり溶けそうになっていた。

やがてケイスケさんの舌が首筋から胸へと滑り落ちていく。時折柔らかいキスが肌に落ちてきて、俺は思わず声を漏らしてしまう。もうすでに固く立ち上がった突起をベロッと舐められて背中を反らすと、その隙間にケイスケさんの手が入り込む。
そのまま持ち上げられた状態で尚も突起を攻め立てられて、俺はイヤイヤと頭を打ち振ってしまった。

「はぁっ、ん………ゃ、だっ…」
「………嘘つき」




こんなに固くして、もっともっとと俺を誘ってるくせに。





耳元で囁かれたケイスケさんの言葉に体がビクッと震えた。

前も同じような事言われたけれど、今のは全然違う。囁かれた吐息に甘やかさが含まれていたからだ。自分から欲しがるとこんなにも感じ方が違うのか。
俺はもう全身が性感帯になってしまったかのように、ただ喘ぎながらケイスケさんの手や唇や言葉に溺れていった。






やがてケイスケさんが俺の体をひっくり返そうとしているのに気がついて、俺は夢中でケイスケさんの腕を掴んだ。

「ゃ、だっ………」
「藤原………」
「も、と……俺の事、見て………?」


もう、背中越しの愛撫なんてイヤだ。あんな寂しい愛撫なんかしないで。
ちゃんとケイスケさんと向き合いたい。


「ちゃんと……俺を見ろよ………」

そう呟いて俺はケイスケさんの首に腕を回してぎゅ、と縋りつく。少し汗ばんだ肌にケイスケさんの匂い。


あぁ、ケイスケさんの体だ。
何度この体に縋りつきたいと思ったか。


ケイスケさんはもう離そうとせずに俺をぎゅっと抱きしめた。耳元で聞こえるケイスケさんの吐息が熱い。俺はそれに安心と愛しさを感じて目を閉じる。
トクトクと僅かに聞こえてくる音。二人のそれが重なり合うのに耳を澄ましているうちに、今まではぼんやりとしか浮かばなかったビジョンが少しずつ輪郭がはっきりしだした。



『……くみ………好き、だ………』



あぁ、また浮かんできた。これってやっぱりケイスケさんの声だったんだ。



『………そ…な、何度も……わないで……さ…よ……』
『いいだろ……………?言いたい、だ……から……』






「………藤原……」

ふと現実のケイスケさんの声が聞こえてきて、俺ははっと目を開けた。ケイスケさんは少し体を起こすとどこか不安そうに俺を見下ろしてきた。

「………本当に……こんなんで思い出せるのか?」
「………わかんない、すけど。でも……」
「でも………?」

言葉を続けるケイスケさんに、ちゅ、と軽くキスをして笑うとケイスケさんの顔がサッと赤らんだ。

「………たくさん、俺に触れてキスしてくれたら……思い出すかもしれないです」

俺の言葉にケイスケさんはまた顔を赤くして目を逸らす。


俺だって本当はこんな事言うの、恥ずかしいんだ。
でもそれ以上にこんなにケイスケさんを求めている。
記憶が戻っても戻らなくても、もうどっちでもいいやとそんな事まで思っている。


それぐらい、俺はケイスケさんの事を好きになってしまっていた。


「ケイスケさん………お願いがあるんです」
「………何だよ……」

目を逸らしたままのケイスケさんの顔をぐいっと向けさせ、しっかりと目を合わせる。ケイスケさんは一瞬目を逸らし、その後おそるおそる俺を見つめてきた。

「………俺の事、名前で呼んで下さい」
「っ………」
「お願いします………」

じっと見つめる俺に、一つため息をついてケイスケさんは薄い唇を開いてその一言を紡ぎだした。





「―――たく、み」













『―――来いよな。一緒にやろうぜ』





その瞬間、朝日に照らされた眩しい横顔が脳裏に浮かんだ。







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