Never Forget Me





2.コワレタオモイ 第7話(Side T)





静まり返った部屋に荒い息とわずかな水音が響く。床に倒れている俺の胸にケイスケさんの髪の毛が触れて妙な感覚にとらわれる。

「………ッ、う………」
「藤原ァ……声聞かせろよ―――」

そう言って煙草の匂いが染みついた二本の指が俺の唇をこじ開ける。それでも歯を食いしばる俺にイラつくのか、ケイスケさんはまっ平らな俺の胸に舌を這わせる。女の胸と違って固くゴツゴツしているのに、ケイスケさんの舌が乳首を嬲り吸いつくと腰に電流が走ったようにズクンと疼いてしまう。

「―――ぁあっ!」

その感触にゾクリとしながら思わず声をあげてしまうと、ケイスケさんはしてやったりな顔をして唇を重ね舌を差し込んでくる。噛んでやろうか、と思う間もなく激しく口の中を荒らされて俺は酸素不足になりそうになった。 激しく絡んでくる舌に、どちらのものとも言えない唾液が俺の口端を伝って流れ落ちていく。

体を捩る度にフローリングに当たる背中が痛い。頭の上で縛られている両腕がしびれて感覚が麻痺してしまっている。




何で―――何でこんな事になってしまってるんだろう……




俺はぼんやりする頭でそんな事を考えていた。



そんな俺に気づいてケイスケさんは唇を離し、俺を睨みながら手を動かしだした。カチャカチャっと音が聞こえて俺は我に返り、思わず下を覗き込むとケイスケさんの手が器用にベルトを外して、ジーンズのボタンまで外そうとしているのが目に入る。

「ちょっ、何やって―――ッ!!」
「んなのキモチ良くしてやるのに決まってんだろ?」
「やだっ、やめろっ、やめろよ………っ―――」

俺のジタバタする足がケイスケさんの体を蹴るのに眉を顰めながらも、ケイスケさんの手がボタンを外し、するっと下着の中にまで入ってきた。俺は自分以外の手がペニスを握り締める感覚に体に鳥肌が立ち、背中を思いきり反らしてしまった。

「――――ッ!!!」
「…………もうビンビンに勃ってるじゃん。あんなに口では嫌がってたクセしてさぁ」

ケイスケさんがニヤリと笑いながら俺のペニスをそのまま上下に擦りだした。少しだけ濡れていたペニスはあっと言う間にヌルヌルしだして、更に濡れた音が聞こえだす。その音に俺は感じてしまっている自分の体にどうしようもない嫌悪と絶望を感じて、縛られた腕で顔を隠した。


「あぁ………っく、」


男のこの器官はあまりにも単純だ。感じたくもないのに腰は揺れ、自分を犯す目の前の男に無意識に刺激をもっともっととねだる。

「顔見せろよ……藤原が感じている顔、すげぇ見たい……」

甘さを含んだ吐息交じりに耳元で囁かれ、俺はピクンと体を揺らしてしまう。そしてふと、どこかで誰かに同じような事を言われたようなデジャヴにとらわれる。




自分は、前もこうやって、男にヤられたのか?




だけど儚い蜃気楼のようにそのビジョンははっきりした形を俺には見せてくれない。






『―――と……見せ…く……み………』






(何だ………コレ……)


その奇妙な感覚の理由を考える間もなく、ケイスケさんの手がペニスの括れを擦り指で先端をグリグリしてくる。その刺激に俺は思わず腰を持ち上げてしまう。そこまでされたら、もう俺は喘ぎ声しか出せなくなってしまった。

「んはっ………ゃ、め………」
「………」

息も絶え絶えになりながら尚も抵抗する俺に、ケイスケさんはいきなり動かしていた手を止める。俺はペニスへの愛撫が止まり思わず吐息を漏らしたが、次の瞬間下半身にまとわりついていたものが無くなった感覚に体を震わせた。

「なっ………ケ、スケ……さ…?」

俺のその問いかけを無視して、ケイスケさんは俺の膝裏を掴み、ぐっと広げた。すげぇみっともない格好にさせられて俺は足をばたつかせて何とか閉じようとするが、上に乗られたらどう考えたってケイスケさんには敵うはずもない。そんな俺の抵抗を無視して、ケイスケさんは次の瞬間信じられない行動にうつった。

「―――ぅ、あぁっ!!」

ペニスが生ぬるいものに包まれた感覚に、俺は思わず声をあげてしまった。
足を持ち上げたケイスケさんが俺のペニスを口に含んだのだ。そのまま舌で括れを舐め、唾液を絡ませてジュブジュブと音をたてて愛撫する。
だいぶ長い事(少なくとも怪我をした時から)忙しさもあって自分でもシていなかったから、俺のペニスはあっという間にケイスケさんの口の中でぐぐっと重量が増していく。同じ男故感じる場所が手に取るようにわかるからか、ケイスケさんの愛撫は情けないほど気持ちよく感じてしまう。




男に咥えられているのに、喘ぎ、よがってしまっている自分。




そんな情けなさと次から次へと波のように押し寄せてくる快楽に、俺は頭がどうにかなってしまいそうだった。



しかしそう思ったのもつかの間、いきなりペニスを包んでいたあたたかい感覚がふいに無くなって、俺は思わず身震いしてしまった。どうして………と思いながらケイスケさんを視線で追うと、ケイスケさんは無言で俺を見つめたまま、自分のベルトを外しジーンズと下着を脱ぎ取ってしまった。怒張したケイスケさんのペニスを見た途端、これからされる事が何なのか一瞬理解ができずにいた。



じりっ………とにじり寄るケイスケさんの表情はもう獲物を狙う獣にしか見えない。俺はその表情に背筋が凍るのを感じて、体を強張らせた。




何、アンタまで服を脱いじまってるんだよ。
俺を男だって理解してんのか?






「―――嘘、だろ………」





俺のその言葉を、ケイスケさんは、冷たく鼻で笑って流した。







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