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「んんっ、け、すけさっ……、ちょっ、」
「るせーよ、もう待てねぇっつの――――」
結局二人は誰もいない高橋家へと向かい、啓介の部屋で電気をつけるのも服を脱ぐのももどかしく、お互い噛みつくようなキスを繰り返していた。
と言うよりはもっぱら、啓介の方が激しいキスを繰り返し、その度に拓海の足が何度も崩れ落ちそうになっていたのだが。それでも今までの柔らかい、拓海を思いやるようなキスではなく、頭からむしゃぶりつかれそうなくらいの激しいキスに拓海の体は沸点を超えて蕩けそうになっていた。
啓介が、啓介だけがこの熱を鎮めてくれる。
そんな思いが拓海をさらに大胆にさせていく。唇を貪られながら、たどたどしく啓介のシャツのボタンに指を滑らせると、それに気がついた啓介が唇を離してニヤリと笑った。
「………ンなに、シたかったんだ?」
意地の悪い問いかけに、拓海の頬がぱぁっと赤くなる。それでももう嘘はつけないから、コクリと小さく頷いてもどかしげに一つ、外し始めた。
そんな拓海を少しの間見つめていた啓介は、徐に拓海のTシャツの裾から手を差し入れて直に肌を撫でる。
「っ、ちょっ、けいすけさ……っ」
「俺だってガマンしてたんだぜ?………藤原が耐えきれなくなるまで、手ェださないでいようってさ」
滑らかな肌の感触を確かめるようにしながら囁かれた、思いも寄らない啓介の言葉に二つ目のボタンを外していた拓海が瞳を見開いて啓介を見つめた。
「え………」
「もうさぁ、すっげ辛かった……ここ最近なんか、キスすんたびに藤原が煽って煽ってしょーがなかったし」
そうくすっと笑いながら呆けたままの拓海の体をベッドへと押し倒すと、そこでようやく拓海が我に返った。
啓介は「手を出せなかった」のではなく、「手を出さなかった」のだ。
「なっ、じゃっ……」
「うん、藤原の『早く俺のコト抱いて』オーラ、ガンガンに感じてたぜ?」
この唇とか、とうっすら開いた唇を指でそっとなぞり、そのまま指を押し込んでくる啓介に拓海は何も反論できないまま受け入れてしまう。
悔しいけど、啓介の言う通りだったからだ。
この男には最初から拓海の欲望などバレていたのだろう。
啓介の吸っている煙草の匂いが染みついた指がゆっくりと口腔内を彷徨い、舌に悪戯をしかけるように弄りだす。
その動きに耐え切れず拓海がそろ…と舌を動かしだすと、啓介は待ってましたとばかりにゆっくりと抜き差しを始めだす。
何度も往復する指のその動きに、拓海は次第に錯覚に陥りそうになってくる。
啓介の昂りきったそれが拓海の口腔を犯しているような、そんな倒錯した映像が浮かび始めて、気がつけば唇を尖らせ指を舌の腹で擦るようにしていた。
いつの間にか拓海のジーンズの前はきつくなり始めていた。固い生地でさえ押し上げようとするくらいペニスがパンパンに張りつめ、啓介の指の動きに合わせてゆるゆると腰が揺れだしていた。
そんな拓海の腰の動きに啓介はくすっと笑うと、指を差し入れたまま拓海の表情を覗き込む。
「藤原……やぁらしー。もう触ってぇって腰が揺れっぱなしじゃん」
「ッ………、んむ…」
「キツイ?触って……欲しい?藤原、」
―――ちゃんと言葉にして?
そう言いながら散々弄り倒した啓介の指が引き抜かれていくのを、拓海の舌が無意識に追いかける。その表情に腰の奥を疼かせながら、啓介はそのまま手を拓海のジーンズの前を手のひらで擦る。
途端に拓海は「ッ…………」と息を詰まらせて啓介に思わずしがみついてしまった。
「藤原……ほら、どうなんだよ………もう、こんなんじゃん」
「ッ、わか、て…いるなら訊く、なよっ………」
「んー、でも聞きたい。藤原の口からちゃんと」
悪びれもなくそう耳元で囁かれ舌で耳たぶを嬲られて、ヒクンと反応しながら拓海は啓介を見上げた。
自分を見下ろす啓介の口元は弓形に弧を描いて笑みを浮かべている。けれどそれ以上に視線を奪われるのはその瞳だった。
鋭い切れ長の目は、今はもうすぐにでも拓海を貪りたいと訴えている。
我慢していた、という啓介の言葉はおそらく本当なのだろう。
余裕がありそうな言葉の羅列は、切羽つまっている気持ちの裏返し。
そんな啓介の表情に、拓海の熱はさらに上がって煽られていく。
「………ッ、われ、よ……っ…」
拓海の色気もそっけもないその言葉に啓介が苦笑しつつも、拓海のベルトのバックルを外し、ジーンズのジップとボタンを緩めていく。くつろげて下着の中から固く育ちきった拓海のペニスを取り出すと、啓介の手が上下に動きだした。
「ンッ、ぁ、っけぇ………!」
何の前触れもなく動かし始めた啓介の手に、拓海はぐっと背中を反らせてしまう。
慈しむとか、丁寧にとか、そんな言葉とは無縁な扱いに拓海は悲鳴をあげそうになる一方で、一気にペニスに熱が集まっていくのを感じていた。
くちゅくちゅと卑猥な水音が聞こえてくる。拓海自身から流れ落ちる先走りが、動く啓介の手によって塗りこまれていく。
今まで散々啓介に煽られ続け、溜め込んでいた欲望はあっという間に限界を訴えてきた。
拓海はハァハァと荒い息を吐きながら、啓介の腕を掴んで爪を立てる。
「んっ、ん……けぇすけさっ、も……」
「も、イッちゃいそ……?それなら―――」
イけよ、ずっと見ててやるから―――
啓介のその言葉に拓海が目を見開いて、咄嗟に顔を隠そうとする。しかしそうするより早く、啓介の顔が近づいたかと思うと拓海の唇を塞ぎ、舌を絡めた。息苦しさに目に涙を溜めたまま、拓海の開かれた唇からは短い喘ぎが漏れていく。
「ン、ァッ、あっ………っ!!」
ふいに一際短い声があがり、拓海の体がぶるっと震える。同時に啓介の手が拓海の迸らせたもので濡れていく。啓介にぎゅっとしがみつき、何度も手の中にびゅくびゅくと放つと、拓海はまだ自分の舌に絡みついている啓介のそれを無意識に軽く吸った。
「ん………」
拓海の表情を見つめているとふいに舌を吸われ、啓介がふっと目を細める。そんな啓介の表情にも気がつかず、拓海はようやく唇を剥がしてハァハァと苦しげに呼吸を繰り返した。
「良かった………?」
「………、ッ………」
とろりと甘く囁く啓介の声に、拓海の体がビクッと反応して再び熱が上がっていく。その体温の上昇を感じたのか、啓介は拓海の上で体を起こすと着ていた服を一気に脱ぎ捨てていった。
ぼんやりと視線を投げたままの拓海の前で、惜し気もなく啓介がその裸身を露にしていく。
(ほ、しい………啓介さ……)
今までもそう思っていた。だけど今はそれ以上に啓介を欲しがって求めて、体中が疼いている。
一回放ったのに、貪欲な自身は再び擡げ始めていた。
もっともっと食らい尽くして。俺をアンタでいっぱいにして。
くたりとしたまま、そんな事をぼんやり考えている拓海の服を全て剥がし、啓介がゆっくりと唇を重ねてくる。
その体の重みを受け止めるように、拓海は広い背中へと手をまわして薄く笑っている啓介の唇を貪りだした。
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