酒は飲んでも飲まれるな






後 編







何度か階段から二人で転げ落ちそうになったのを何とか防ぎ、啓介はようやく拓海の部屋にたどり着いて、拓海の体をベッドに沈めてやった。
ボスンと小さく体が弾み、拓海はしどけなく手足を伸ばしきって唸っている。
そんな拓海に覆い被さり、その甘く色づいた唇に自分のを重ねれば、拓海はすんなりと招きいれ啓介の首に腕をまわした。
くちゅくちゅと濡れた水音が薄暗いままの部屋に小さく響き渡る。いつもよりも積極的な拓海の舌を宥めるように絡ませながら、啓介はトレーナーを捲り上げて胸へと手を滑らせた。

「ぁ……ん………」

さむい、とふるりと体を震わせる拓海に、「もうすぐイヤでも熱くなるぜ……」と耳元で囁きながらぷっくり勃ちあがった胸の果実を指でこねくりまわしてやると、拓海は「ふぅ……ん…」と小さく鼻息を漏らしながら体を捩らせた。舌を拓海の口腔内で動かしながらもう片方をきゅ、と摘んでやると、拓海の体がビクンと大きく跳ねる。

「藤原………」
「け…すけ……さ……」

こっちも……と拓海が自分でトレーナーのズボンを脱ごうとするのを、

「いいぜ……脱いで……」

と促してやると、拓海はいつもよりも大胆に下着ごとズボンを剥ぎ取ってしまった。白い滑らかな太腿が暗闇の中に浮かび上がる。その光景に啓介はごくりと唾を飲み込み、自分も着ていたセーターを脱いだ。
あらわになった啓介の上半身に、拓海はとろりと見上げながら手を胸に這わせる。

「けぇすけさ………きれー、すね……」
「俺にとっちゃ、お前の方が綺麗だっての………」
「こ、な俺………どこが………?」

啓介の言葉に拓海の表情がわずかに曇り、少し拗ねたような口調で尋ねる。今夜の拓海は酒を大量に摂取したからか、やたらと素直でヤラシイ……と啓介はひそかにほくそえんだ。

「んー………この唇、とか、」
「んっ………」
「この首筋とか………舐めると甘そう……舐めていい?」
「あ………ンッ……」

赤く染まって震える唇を啄んだあと、そのまま首筋を舌で這うと拓海がぴくっと体を揺らす。
啓介の肩をきゅっと掴みながらせつなげに眉を寄せる拓海は、たまらなく情欲を煽る。
胸の上辺りでまとまったままのトレーナーはそのままに、今度は舌をほんのりと紅色に染めて主張している果実をそっと唇で食むと、拓海は「ィ、あぁ………」と甘い吐息混じりに声を漏らしだした。

しばらく胸の果実で戯れたあと、腹から綺麗に窪んでいる臍へと舌は辿っていく。
もっと視線をおろせば、そこには淡い茂みの中ですでに震えながら濡れ始めている拓海のペニスがしっかりと勃ち上がっていた。

「まだこれしか触れていないのに……もうこんなに感じちゃった…?」

そっと指を絡ませるとくちゅ……と音がして、拓海はグッと背中を反らせてしまった。

「ンッ、あ、ゃ…ァ………っ…」
「ヤダ、てわりには……感度バツグンじゃねぇ?ほら、俺の手ン中でピクッて悦んでるんだけど…」
「バ、カ……んなこ、と…いうな、ぁ………」

いつもなら真っ赤になってもっと強い口調で拒むのに、今は蕩けそうな甘い声でイヤイヤと頭を振るのみだ。これなら、いつもは断固としてしてくれないアレも…やってくれちゃう?などと密かに思った啓介は、拓海の顔を覗き込んだ。
拓海の表情はすっかり溶かされて、いつもよりもとろりとした瞳で啓介を見上げている。そんな拓海の鼻にちょん、と口づけてさっそくオネダリをしてみる。

「なぁ…拓海………俺の……シてくんねぇ……?」

ベッドの時間だけでの呼び方で名前を呼びながら、ココ、で……と赤く色づいた肉感的な唇をそっと指でつつくと、「え…」と小さく声を漏らしながらマジマジと見つめ返す。

「遅くなっちゃったお詫び……拓海に食べさせてあげるぜ?お腹…空いただろ」

本当なら言い分は違うはずなのだが、ベロベロに酔っている拓海はその事に全く気がつかない。
それどころか、顔をうっすらと赤らめて「ん……」とこもった声を漏らしながら起き上がり。啓介の足の間に体をすっぽりと入れてしまったのだ。

(うっ、そ………マジでマジで!?)

「けぇすけさ………これ………」

拓海の思わぬ行動に、珍しくどぎまぎする啓介をよそに、拓海はジーンズのボタンが固くて外せない…と潤んだ目で啓介を見上げている。そんな拓海の視線に、啓介はわざとゆっくりボタンを外してチャックを下ろしていく。その手の動きを物欲しげな表情で見つめている拓海は、あの峠で熱い走りをする「秋名のハチロク」と同じ人間なのかと思ってしまうほどであった。

やがて下着を押し上げるほどまでに成長した啓介自身の先端が見えてくると、拓海はじり…と近寄り、下着の上からチロ、と舐めた。

「っ………」
「…………だして、いぃ……?」

舌の動きに身を震わせた啓介に、拓海が上目づかいで尋ねる。そんな表情でオネダリされたらひとたまりもない啓介は、拓海に当たらないようにして着ていた服を全部脱ぎとって放り投げた。
途端にガチガチに固くなって天を仰ぐ勢いの啓介自身が現れ、拓海はコクッと唾を飲み、両手を添えてちゅ、と先端に口づけた。途端にぷくりとこぼれだす苦味を舌で掬い取り、少し顔を顰めながらも拙い動きで啓介自身をさらに成長させていった――――



ちゅくちゅくと濡れた音が部屋に響く。
口の周りをベタベタにしながらも拓海の愛撫は止まる事がない。
先端の苦味を舐め取り、幹に舌を這わせ、まるで飴のように啓介自身を舐めまわしていた。
最初は拓海の髪を撫でながらその舌の動きを見ていた啓介も、次第に余裕がなくなってきたのか撫でていた手で時折きゅ、と髪を掴んでしまっている。

「た、くみ……も、離せ………」
「……や、ら……」

(やら、じゃねぇよ!ンな可愛く拒否ンなっ!)

甘ったるい声で拒否する拓海の言葉にツッコミを入れると、啓介は何とかして拓海の顔を足の間からあげさせた。ちゅるっ、と音がして唇が離れ、拓海が不満げに眉を寄せて啓介を睨みつけた。

「やら、て…いったのに……」
「もうさ…俺の固ェの、拓海ン中に入りたくてたまんねぇんだって……拓海のあったかいトコでキモチよくしてやんから……」

ほら、と言って拓海を俯せにして腰だけを高く上げさせると、拓海は枕を抱えながら啓介をトロリと見上げた。

「拓海のココ……もうヒクヒクしちゃって、早く欲しいってか?」
「んっ…欲し………ココ、に…」
「じゃあ、もう少しだけ待ってな………このままじゃ拓海が辛ぇから」

そういうと、啓介は唇をそっと快楽を欲しがってヒクつく蕾へと近づけ、チロッと舌でつつく。その途端にキュウ、と目の前で蕾が締まったのを見て笑みを浮かべた。風呂上りのボディーソープの香りが体温の上昇でほわりと漂ってくる。そんな拓海の滑らかな双丘を撫でながら、啓介は蕾を愛撫し始めた。

「け、すけ、さ………も、ィイから……お願、っ………」

そのうちにこれまた、普段はあまり聞かないような言葉で強請られた啓介は、早々と猛々しく成長した自身を拓海の中に押し込めて、激しく揺さぶっていた。
最初は枕に顔を埋めてくぐもった声で喘いでいた拓海も、啓介から枕をもぎ取られてからは細くか細い声で喘いでいる。拓海の実家ともあって、さすがに大きな声は出させられないから、拓海の声が大きくなりそうになると啓介は唇を自分のそれで塞ぐ。
呼吸が苦しくなるからかイヤイヤと顔を背けようとするが、それと同時に覆い被さるたびに深くなる啓介の突きに、拓海はただただ、ぽろぽろと涙を零しながらも感じて甘い声をあげ続けては啓介を強請り続けていた。

やがて先に果てた拓海を追って啓介も拓海の内部にその熱い思いを迸らせると、拓海は一際細く長く声をあげ、そのまま深い意識の底へと落ちてしまった。
体を震わせながらも啓介が「ンッ………」とゆっくり自身を抜けば、拓海の体はとさっとベッドの上に倒れ込んでしまう。その体をそっと抱き寄せて、啓介は汗ばんだ拓海の額をそっと拭ってやった。

「……………」

ぴくりとも反応しない拓海に思わず苦笑して、纏わりついていたトレーナーを脱がせてそっと自分達の体に布団をかける。

「………あったけー………」

拓海の体のぬくもりに思わず声を漏らして、啓介は目を閉じる。すーすーと静かに聞こえてくる拓海の穏やかな寝息が、啓介にも眠気をそっと運んでくる。




明日はおわびに自分が全部支度してやろう。

昼間だから、酒は飲まずにジュースかなんかで乾杯して。
美味しいケーキは、甘いものが好きな拓海ならきっと喜んでくれるに違いない………




そんな事を思いながら、啓介もまた拓海のぬくもりに誘われるように意識の底へと沈んでいったのだった。








「……ってぇ……」
「だから飲みすぎだっての………」
「誰のせいですか………」
「…………スイマセン」

翌日、啓介の思惑は大きく外れて、こたつで二日酔いでガンガンする頭を抱えて伏せっている拓海は、啓介が用意した食事に手をつけることができなかった。

「うー………食えません…こんなに……」
「………だよなぁ……じゃあコレ、親父さんと夜にでも食ってくれよ」

少ししょんぼりとしてまた元に戻す啓介に、さすがに悪いと思ったのか、痛む頭を抱えつつ拓海は立ち上がり、店の方へ歩いていく。そしてひんやりと冷えたケーキの箱を持って戻ると、こたつ板の上にそっと置いて蓋を開けた。その様子をぽかんと見ていた啓介に、少しバツが悪そうに

「………皿と、ナイフ、取ってくださいよ……」

と拓海が呟くのを聞き、啓介は笑って言われた通りに皿とナイフ、それにフォークを取り出した。
真っ白なクリームでコーティングされたケーキを箱からそっと取り出して、トッピングされているヒイラギやサンタの人形を慎重にどかしつつ啓介は鼻歌を歌いながら切っていく。
見かけによらず丁寧に取り分ける啓介に、拓海は内心感心しながらもそれは表に出す事はせずに、差し出されたケーキに頭を下げてフォークを手にして一口食べた。

「………うめぇ……」

甘すぎないクリームが口の中でとろりと溶けていく。スポンジは時間が経ってもしっとりとしていて、一口食べただけで高級なケーキだとわかるくらいだった。

「だろ?ここのケーキはうちで毎年注文している店でさ。今年はココで食べる分も一緒に予約しちまったんだ」

おいしそうに食べる拓海を見つめながら、嬉しそうに啓介が言葉を紡ぐ。そんな啓介に、拓海は半分照れながらも「………ありがとう、ございます…」と礼を言う。

「どーいたしまして。藤原に喜んでもらえたなら買った甲斐があったぜ」
「………いねん、は……」
「……え…?」
「……………」

小さく小さく紡がれた拓海の言葉に、啓介は目を見開き、それから嬉しそうに笑って拓海に後ろから抱きついた。

「うわっ、や、やめろよっ………」
「来年はちゃんと………藤原を優先にするから…………」



約束するから。



そう囁いた啓介に拓海は顔も首筋も真っ赤に染めながら、コクリと小さく頷いたのだった。











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