Never Forget Me





3.もう一度 最終話(Epilogue 2)





走り屋の聖地と呼ばれる神奈川遠征では、珍しくバンガローに宿泊する事になった。
いつもなら車中泊となるのだがさすがに大舞台なせいもあるのと夏の暑さの事も考えてか、今回はドライバーのみならずクルーのメンバーも一緒に泊まる。




バンガローに着いた途端、はしゃぐケンタをいなしながら史浩が調理器具を出して支度をしているのを見て、拓海が意外そうに尋ねた。

「………史浩さん、料理できるんですか?」
「ん?あぁ、まぁ………パスタだけどな、こう見えても得意なんだぜ」

苦笑しつつも買出しの準備をしだした史浩に拓海はすごいですね、と呟いてふとウッドデッキに出てケンタと話をしている啓介に視線を向けた。
楽しそうに富士山を指差してはしゃいでいるケンタに、少しあきれた様子を見せながらもどこか自分も楽しそうな啓介の姿に少しだけムッとする。そしていつの間にか軽く嫉妬している自分自身に気がついて、拓海は思わず唖然とした。

(あ、あれ……俺、何考えているんだ………?)

「………さて、食料品の調達に行ってくるかな。藤原、ケンタはどこにいるんだ?」

ウッドデッキをぼんやりと見つつも内心は焦っていた拓海は、史浩の声に慌てて振り返った。

「あ……啓介さんと、デッキで―――」
「……アイツらはしゃいでんなぁ。おい、ケンタ―――」

史浩がケンタを呼び、手伝うように話をしている間に啓介が部屋へと戻ってくる。部屋の真ん中でぼーっと突っ立っていた拓海に視線を向けると、ふいっと逸らし、シャツの胸ポケットから煙草を取り出しながら史浩に振り返る。

「なぁ史浩、俺と藤原はどこで寝りゃいいんだ?」

啓介と拓海はバンガローに来る前に、涼介から「夕方までは寝て体力を温存しておけ」と言う指令が出ていた。

「お前達はあそこだ。その方が煩くなくていいだろ?」

と史浩が指を指したのは、梯子を使って登った先のロフトだった。その場所に思わず二人は「え?」と固まってしまう。
そんな二人に史浩は笑いながらバンのキーをケンタに渡す。

「ロフトは二人で寝るのにちょうどいいし、他の連中はまだ起きているから下の部屋じゃ眠れないかと思ってな」

じゃあゆっくり休んどけよ、と史浩はそう言ってケンタや他のメンバーと一緒に買出しに出かけて行った。ドアが閉まった途端に静まり返る部屋の中、二人はしばらく動けずにいた。
やがて啓介がふぅっとため息をついて煙草に火を点ける。それにハッと我に返った拓海はゆっくりと啓介に視線を向けた。

「………」
「………」
「………寝るか」
「………はい…あの、」
「絶対ェ無理」

拓海が続けようとした言葉を啓介は強い口調で遮った。

「………」
「お前と二人きりの空間で我慢しろなんて、」


どうしたって拷問でしかねぇよ。


そう言い、拓海の視線に見つめ返す啓介の瞳には僅かながらに欲が浮かびだしている。その少しばかりの淫靡な空気にすら体がカッと熱くなってしまうものの、今夜は大切なバトルがある。
それは啓介だってわかっているはずだ。だから拓海はそんな啓介を無視して、黙って荷物を持って梯子を登りだす。

その姿をじっと見つめつつ煙草を吸っていた啓介もまた、今夜のバトルが重要なことは百も承知していた。
でも拓海と二人きりの空間というのはそれすらも忘れてしまいそうになるくらい魅力的なもので。どうしたらいいものかとしばし思案していた啓介は、ふと思いついた方法にニヤリと笑みを浮かべ、煙草を消して荷物を持ち拓海の後を追った。


啓介が階段を登りきると、拓海はすでにジーンズを脱いでTシャツに下着姿で布団に横たわろうとしているところだった。啓介が来たのをちらっと見つめ、何も言わないまま拓海はもぞもぞと中に潜っていく。
それを見た啓介は荷物を放って拓海に近寄り、ジーンズを脱ぎ捨てるとガバッと掛け布団を捲りはがしてしまった。

「ちょっ、ダメって言ったじゃないすか、んんっ…………」

猛抗議する拓海の両手首を顔の脇に押さえつけ啓介の唇が塞ぐ。

記憶を戻してからというもの、啓介はしょっちゅう人目を盗んでは拓海に触れてくるようになった。さすがに峠では体を重ねる事はしないけれど、木陰に連れ込んではディープキスを繰り返したりきつく抱きしめたり。
今までの反動もあるのだろうと思って、拓海もあまりきつく言ってやめさせないのをいい事に、最近はそれがひどくなってきていたのだった。

「ャ、だってば………け、ぇす……けさ……っ」
「拓海………頼む、中には挿れねぇから……」

貪るように唇を舐めまわしながら啓介がそう言うと、拓海は疑うような視線で啓介を見上げる。

「………ぜってぇそんなこと無理だ……」
「ホントだって………俺だって今夜が大事な事はよくわかってるから」
「なら、今すぐやめてくださいよ」

手首を固定されてしまってる為体を捩る事で抵抗を試みる拓海に、啓介はそのまま拓海の手首をまとめて頭上で押さえつけて、下着をズルッと脱がせてしまった。

「………ッ、しないって今言った………っ!」
「だから、『中には挿れない』って言っただろ………?」
「え………?」

意味がよくわかっておらず訝しげな拓海の表情にクスッと笑うと、啓介は自分の下着を片手で器用に脱ぎ取る。そして拓海の手を掴んで体を起こさせると、胡坐をかいた自分の膝の上に向かい合わせで跨らせた。
それまでぼーっとしながら啓介の行動を見つめていた拓海は、そこでようやく我に返り真っ赤になった。

「何、や……てんですか……っ、ァアッ―――!」

自分と啓介のペニスを一緒に握られ上下に扱かれて拓海の背中がグっと反る。すでに硬度を増している啓介のペニスに煽られるように、まだ半勃ちだった拓海のペニスもズクンと固さを増す。
啓介の大きい手のひらがゆっくりと濡れた音をたてながらペニスを愛撫し始めると、拓海は小さく甘い声をあげながら啓介の肩をきゅっと掴む。

「なぁ…拓海も一緒に………ほら」

扱いていた手を離して拓海の手を取り、自分達のいきり立っているペニスを握らせると拓海の体がまた跳ねた。そのまま上から啓介の手が重なり再びゆっくりと動かしだしていく。
ペニスの裏側に感じるお互いのもう一つの熱が否応なしに腰を揺らさせる。いつの間にか啓介の助けがなくても夢中で手を動かしている拓海の薄く開いた唇に、啓介の唇が重なった。

「ン、ん、ふぅ……ァ、………」
「んぅ……たく、み…………すげ、ヌルヌル………」

拓海の舌を吸いながら啓介が呟く。シャツの上から控え目に主張しだした胸の小さな果実をくりっと摘めば、ペニスにダイレクトに響くのか拓海は「ぅ………」と眉を寄せてきゅっと握る手に力を込める。






決して広いとは言えないロフトにくちゅくちゅと濡れた音、そしてお互いの荒い吐息が交じり合って濃密な空気が漂っている。いつ買い出しに行った史浩達が戻ってくるかというスリリングさが、二人をよけいに大胆にさせ興奮させていく。やがて拓海のペニスが限界に近いのか一段と固さを増し始めた。

「ァ、ん…もぉ……啓介さ…ぁ………」

快感の涙をぽろぽろと流しながら拓海が啓介を見つめる。啓介はその言葉にさらに手に力を込めて擦りだした。

「あ、あ、ぁ……んゃ……っ…」

声をあげないように歯を食いしばってても、次々に繰り返し襲ってくる快感に堪えきれず漏れてしまう嬌声に啓介はさらに煽られていく。拓海のこの、押し殺した声がたまらなくてもっともっと聞きたくて、ペニスの先端を親指でグリグリと刺激した。

「ひ………っ、あ―――っ!!」

ふいに拓海のペニスが固さを増したと思った瞬間、拓海は一際声をあげて白濁を放ち、お互いの手を濡らして果てた。それにつられて啓介も短く唸り、一瞬遅れて熱を放った。

呼吸が荒いまま啓介は拓海の頬に伝う涙にそっと唇を寄せる。ピクリと揺れて、拓海がゆっくりと目を開く。睫毛に溜まっていた涙がぽろりと落ちるのを見て啓介は唇を瞼へと動かした。

「今………綺麗にしてやるからな…?」
「信じ、らんね……ぇ………っ…」

そう言い捨てて啓介の体にぐったりと寄りかかる拓海に、「悪ィ………」と背中を撫でながら啓介がシュンと謝る。

「だけど、ちゃんと中には挿れてねぇし………」
「………今夜の、」
「え?」
「今夜のバトルに負けたら………当分しませんからね」

だから早く休みましょうよ、と続けた拓海に、啓介は拓海の顔をあげさせてニヤリと笑う。

「………エースのこの俺が負けるわけねぇだろ?」

その自信に満ち溢れた言葉と表情に、

(こっちの方が啓介さんらしい―――)

と、拓海は苦笑しながらもそう考えてるとふいに啓介の顔が近づく。拓海がきょとんと見つめると目の前の恋人は目を細めながら軽く唇を重ねた。


「―――好きだぜ、拓海」






俺はお前がいる限り走り続ける。いつか世界を取ってやる。だから、



「お前も遅れんなよ?」



そうエラそうに啓介が言うから。



「………啓介さんこそ、俺に抜かれないようにしてくださいよ?」



俺だって、啓介さんがいる限り走り続けますから。






拓海はくすっと笑ってそう告げると、自分からも恋人の唇に口づけを落とした。





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