啓介センセーの時間外診療










「ンッ………ぁ、」

しっかりカーテンが引かれ、間接照明に落とされた処置室に、拓海の熱の帯びた声と荒い呼吸が満ちていく。それと共に啓介が拓海の肌に舌を這わせる濡れた音も響く。
僅かな明かりの中で浮かび上がる拓海は下半身を露わにされ、すっかり勃ち上がったペニスを啓介の口腔内に銜え込まれていた。一方の啓介は今だ白衣すら纏ったままである。

「っ、け、すけさ…………」
「拓海………キモチ、い?」

 とぷり、と先端から先走りを零れさせる拓海自身を見つめ、思わずそう問いかける啓介を牽制するかのように、拓海が髪を握っていた手に少しだけ力を込めた。

「っ、てっ!」
「、んなこと…、一々訊くな………っ」

よけいな事は言うなとばかりに、いつも以上に荒い呼吸交じりに吐き捨てた拓海に、「悪ィ」ととりあえず謝りながら、啓介は体を起こした。
白衣も脱がず、すでに臨戦状態になってしまっている股間を解放すべく、慌ただしげに前を寛がせだす啓介を、潤んだ目でじっと拓海が見つめている。

「…それ、脱がないんすか………」
「えっ?」

ふいに零れた小さな呟きに啓介が不思議そうな表情で拓海を見ると、拓海はまたふいっと視線を反らせる。が、どこか照れたような様子に何となく問いの意味がわかった気がして、啓介はニヤリと笑みを浮かべた。

「…お医者さんプレイに、コーフンする?」
「っ!ア、アンタ何言ってんだ!」
「じゃあ何でンな事訊くんだ?」

意地悪く畳み掛けるように問いかけると、グッと声を詰まらせた拓海がじろっと睨みつける。そんな拓海の表情にたじろぐ事もなく、啓介は立ち上がると薬のビンらしきものが納まっている棚の引き出しを開け、小さなボトルを手にして戻った。
ついでに診察に使うローラー付きの椅子まで引っ張ってくると、拓海が不思議そうな顔で啓介を見上げた。

「…これ、傷とかに塗る軟膏、な?生憎ローションとかねぇから」
「っ、当たり前に決まってんじゃないすか!」

顔を真っ赤にしてキャンキャン吠える拓海をよそに、蓋を回して開けると指で軟膏を掬い取り、その指を拓海のきつく閉じたままの蕾へと這わせた。

「っ、ンンっ!」

ひやりとした冷たい感覚に、拓海が思わず首を竦める。その横で立ったまま啓介は再び拓海の唇に自分のそれを重ねだした。何度も唇を濡らし、堪えきれないように薄く開いたのを見計らって舌を差し入れつつ、蕾のほうもじっくりと解していく。
唇と蕾への愛撫に、まるで幼子のように手を伸ばしてくる拓海を啓介はぎゅっと抱きしめた。その体から風邪のせいだけではない熱を感じ取り、そのまま片手で拓海の体を簡易ベッドから起こさせると、キスに蕩けてしまった表情で啓介を見上げる。
そんな拓海にもう一度口づけ、啓介は引き寄せた椅子に腰を下ろすと前を寛げた。
窮屈そうなズボンと下着の中から勢いよく現れた啓介のペニスに、拓海は目を見張った後顔を赤くしつつ視線を逸らす。

「拓海……来いよ」

視線を逸らした拓海の手を握りしめ自分の方へと引き寄せる。

「………け、すけさ……」
「このベッドじゃ…俺乗ったら壊れちまうから」
「だからって…この格好って―――」
「何か良くね?いかにもお医者さんと患者さんの密室プレイって感じ…イテっ!」

ゴン、と鈍い音がした途端、思わず啓介は頭を抱え込んだ。そんな啓介を、手をグーにした拓海がはぁはぁと呼吸を荒げながら睨んでいる。

「や、ヤるならグダグダ言ってねぇで早くしろよ!」
「あーもう…病人なんだからちっとはおとなしくしろっての―――」

殴られた所をさすりつつ苦笑しながら、啓介は再び拓海の手を取ると自分の上に跨らせた。首に腕をまわさせ、尻を抱えてあてがわせると恥ずかしいのか、拓海が啓介にしがみついてきた。

「ン…もう挿れる、ぞ…?」

拓海に短く伝えると、ぐちゅっと音を立ててペニスを押し込んでいく。最初こそはきついものの、啓介がじっくり解したのと軟膏のぬめりもあって、そこから先はスムーズに入っていった。

「んんっ!ぁ―――…」

拓海の中も久々に啓介のペニスを受け入れるからか、または熱のせいなのか、いつも以上に強い反応を見せた。
そんな拓海を見上げつつ、ふいに啓介は何かを思いついたかのように拓海の艶めかしい腰をするりと撫でた。

「あ、っ―――」
「なぁ……俺の事、センセイって言ってみ?」

相変わらずお医者さんプレイにこだわる啓介に反論しようとするも、啓介のペニスを深く咥え込んでしまった為に、それ以上は声を荒げる事も出来ずに、ただひたすら甘い吐息を漏らすばかりだった。

「ほら……拓海…言ってみろよ……」
「っ………啓介、センセー………」

恥ずかしそうにぼそぼそと呟いた拓海の言葉にやっぱり興奮してしまうのか、啓介は床についた足で踏ん張り、腰をぐっと掴むと何の前触れもなく大きく揺さぶりだした。
いつもなら拓海の体を気遣ってゆるやかな動きから恥じるのに、今日は最初からいきなり強いピストンで快楽を与えられ、拓海は思わず啓介の肩をぐっと掴んでしまう。

「ちょっ、啓介、っさ!!」
「っ、ぶっとい注射、キモチいいだ、ろっ………」
「ぁっ、なに、言…って……………っ、」

恥ずかしい言葉で煽られ、顔を真っ赤にして激しすぎると訴えようとするも、確実に感じるポイントを攻め続けられるうちに次第に拓海の声色が甘いものに変化していく。そんな拓海の表情の移り変わりを見るのが、実は啓介の密かな楽しみだったのだ。

「拓海っ…も、ヤバい…かも、」

しかし今日はさすがにそんな楽しみを味わう余裕もなく、啓介が歯を食いしばりつつ限界を訴えると、拓海も達しそうなのかコクコクと頷き啓介の首筋にきつくしがみついた。

「ンッ、俺、も………っ」

ギシギシと、椅子が悲鳴を上げるかのように音をたてている。拓海の尻をきつく掴み、上下に揺さぶりながら夢中で舌を絡めるキスを繰り返した。

「ッ、ああぁっ――――!」

やがて絶頂を迎えた瞬間、拓海は唇を離し、啓介の肩に爪を食い込ませ戦慄いた。
それと同時に拓海のペニスから勢い良く弾け飛んだ白濁が、啓介の着ているシャツを汚していく。
その甘く引き攣れた声と熱に溶かされるように、啓介もまた、拓海の中に勢いよく飛沫を迸らせた。




「………………」
「あの、拓海…………」
「………………」

啓介のどこか窺うような声音にも、簡易ベッドに横になっている拓海は背中を向けたまま反応しない。
結局最後までイタシてしまった啓介がハッと我に返り見たのは、さらに熱が上がってしまいぐったりと体を預けている拓海の姿だった。
慌てて拓海の中から固さを失ったペニスを抜き、簡易ベッドにくったりとした体を寝かせてやると、拓海はぷいっと啓介に背中を向けたまま、それっきり顔を見ようとはしなかった。啓介を完全に拒絶しているその背中を見つめ、しゅんと項垂れながらも脱がした下半身の衣類を拓海に身につけさせてやる。
再び布団をかけ、その丸い後頭部を労るようにそっと撫でてやると拓海の体がピクリと反応する。

「………家まで、送ってっから。もう少しだけ休んでいこうな?」
「………の方じゃ、」
「えっ?」
「……啓介、センセーのうちじゃ…」

ダメですか、とヘタすれば聞き逃してしまいそうなくらいの小さな声で、拓海がボソボソ呟く。一瞬何を言われたのかわからなかった啓介がそっと立ち上がり拓海の顔を覗き込むと、そこにはまるでゆでだこのように真っ赤になった頬があった。

「拓海………」
「っ、このままじゃオヤジと顔会わせらんねーよっ!」

至極もっともな事を吠える拓海の言葉にぽかんとしていた啓介は、やがて心底嬉しそうな顔をして拓海を背中から抱きしめるように覆い被さった。

「ダメな訳ねぇし…その方がじっくり拓海のこと、看病してやれるもんな」
「…ちゃんと、責任とって下さいよ」
「当たり前だろ、一応拓海の主治医なんだし」
「………病人に盛って手を出すような主治医なんて、俺は嫌です」

心底嫌そうに返されてしまい、「ゴメン」と謝るも、どうしても笑みが零れてしまう啓介を、拓海は今度こそ呆れた表情で見つめ返した。




「っ、へーっくしょん!」
「…三十八度二分。完璧移ったな」

豪快なくしゃみをする啓介の脇から、ピピッと計測終了を告げた体温計を取り出し眺めながら、兄の涼介がため息混じりに呟く。
結局あの後高橋家に連れて行かれ、一晩中啓介の献身的な介護を受けた拓海が完治したのと入れ替わりに、今度は啓介が熱を出し床に伏せってしまったのだった。

「ん〜まぁいいよ、おかげで拓海は治ったみたいだし」
「とりあえずお前もバカじゃなかったって事だな」
やれやれといった感じで体温計をケースにしまう涼介の言葉に、啓介は鼻をチーンとかみながら笑う。
「拓海の風邪なら全然問題ねぇし。あー、今度は拓海が俺を看病しに来てくんねぇかなぁ」

かみ終わったティッシュをゴミ箱に放り、見事に入れながら啓介がどこかウキウキした様子で呟くのを、涼介はやってられんとばかりに呆れたため息をつき、こめかみに指を当てた。


「お前…やっぱりバカだろう………」




End




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