啓介センセーの熱い夜




Secret File  No.4







額から汗がぽたりと流れ落ち、眉をぎゅっと寄せる啓介を拓海はほろほろと涙を零しつつ見上げた。それは初めて見る、啓介の欲と男の色気が漂う顔だった。

「…………っ、痛ぇか……?」

そんな拓海を見下ろしながら、啓介は涙を唇で掬い取る。拓海は無言で小さく頭を振り「大丈夫です……」と掠れた声で呟いた。下腹に異物があり違和感を感じるけれど、思った以上に痛みはなかった。でも今はまだ、啓介が中に挿れているだけだからこれで済んでるのかもしれない。


だが、これで動き出したら――――


そんな不安を覚える拓海に気づいたかのように、啓介が湿って額に貼りついている拓海の前髪をかきあげ、目を見つめる。

「………痛かったら、爪立てていいから……」

そう言い、口づけて啓介はゆっくりと腰を動かしだした。体の中の熱い楔が動き出して、拓海は思わず背中を反らし声をあげた。

「ァっ、や……まだ……まっ、」
「……ごめ、も…ガマンできねぇ……」

最初はぎちぎちとぎこちなかった動きも、ローションで次第にスムーズになってくる。
そして先ほど啓介が指で探し当てた、拓海のポイントを擦るように抉ると拓海はその湿った体を大きく跳ねさせて頭を打ち振った。

「ゃめっ、けぇ…す、けさ―――っ」

目も眩みそうな刺激に拓海が無意識に啓介の腕に爪を立てる。その痛みすら快感に変わり果てていくのを感じて、啓介はさらに拓海の足を持ち上げ、奥深く抉るように動き始めた。






部屋に満ちていた熱い空気が波のように静かに引き始めた頃、拓海はゆっくりと目を覚ました。ぼんやりと見上げる天井が自分の部屋のと違う事に、最初はぼんやりと考えていた。が、

「………目ぇ、覚めたか?」

と心配そうに覗き込む顔に拓海は一瞬きょとんとした。
やがて段々と事の次第を思い出し、カーっと赤くなって体を横にする。その途端、腰に重い感覚を覚えて「ぅっ………」と思わず声を漏らしてしまった。

「まだ動くなよ……相当しんどいはずなんだから……」

そう言いながら背後から抱きしめられ、拓海は顔を見られないように懸命にシーツに押しつけた。

「け……啓介さんがこんなにしたんだろっ?!」

くぐもった声でそう小さく叫ぶと、「………すんません…」と申し訳なさそうな声が背中から聞こえてきた。

「…………あぁ、オヤジさんに連絡しといたから」
―――――はぁっ?!」

続いて聞こえてきた言葉に思わず拓海は体を捻らせて啓介を見ようとして、再び腰の鈍痛に顔を顰めた。そういえば時間は何時かと慌てて時計を見ると、針はもう真夜中の1時過ぎを指していた。拓海の顔がサーッと青ざめるのを見ながら、啓介はポリポリと頬をかきつつ黙っていた。


「なっ………何て…」
「ん…?えっと、酒飲んでたら寝ちゃったんで、て」


そしたらオヤジさん、「明日の配達のツケ、あるから覚えとけ」だって。


暢気にそう言って笑う啓介に、拓海は頭を抱えたくなった。
確かにこの状態じゃ帰っても絶対配達には行けないし、逆に文太に怪しまれてしまうだろう。それならいっその事諦めて、こうしている方がいいのかもしれない……と拓海は小さくため息をついた。


そんな拓海の背中には啓介の厚い胸板がぴったりとくっついている。その、すっぽり腕の中に包まれた感覚に拓海は心地よさを感じて目を閉じた。静かになってしまった拓海に、啓介がのそりと起き上がる気配がしたが拓海はそのまま黙っていた。

実際、再び眠気が訪れていたのもあったからだ。

「……拓海…寝ちまったか?」

返事をしない拓海に、眠ってしまったと思い込んだ啓介は再び寝転がり拓海を抱きしめる。

「………俺…すっげぇ幸せ……」

それだけ呟いて、啓介はやがてすぅすぅと静かな寝息を立て始めた。




拓海は目を閉じたまま、そっと笑みを浮かべて同じように深い眠りの底へと落ちていった。





END


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