Addicted To You

「っ、ぅ…………」

しっかりとカーテンが引かれてて、今が何時かもわからない。ただ、この部屋に連れ込まれて抱き合ってからはもう相当な時間が経っているはずだった。

「け、ぇすけさっ………」
「なに…?も、イきそ………?」
「ちが、っ、いま…何、時す…か……ぁ、う……っ」

俺の中に挿って腰を揺らしている恋人に、掠れそうな声を何とかあげて尋ねようとしているのに。
この人は動きを止めてくれるどころかさらに奥へと突き上げてくるから、俺はもう何も言えずに甘ったるい喘ぎしか出せなくなる。

「ンな時間なんか、気にすんじゃねーよ」

大体、今夜はお前から誘ってきたんだろ?

そういうと、啓介さんはこめかみに汗を伝わらせたまま俺の顔を覗き込んで愉しそうに笑った。


そう。
俺の恋人は『男』だ。
高橋啓介。プロジェクトDのダブルエースの一人で、俺の恋人。
最初に告ってきたのは啓介さんだけど、俺もずっと密かに好きだったから。
イエスと答えて、付き合いだして今じゃこんな風に啓介さんに抱かれるまでの関係になったけれど。

でもこの人、すげぇモテる。
何たって顔いいし、性格もいいし、金持ちだし(あんまりこれ言うと、啓介さんはすぐ機嫌が悪くなる)、本人はその気がなくても周りがほっとかないのもよくわかる。
実際、峠に来ている女の人達の殆どの目当てはこの人か兄の涼介さんだ。
もちろん二人ともそんなの慣れっこで、綺麗さっぱり無視しているけれど。
一応『恋人』の立場の俺としては…やっぱり気持ちのいいもんじゃない。
だからと言って、俺だって男だしあからさまに妬くとかなんて、死んでもできっこない(そんな態度見せたら、啓介さんがガッツポーズ作りそうなのが丸わかりでますます嫌だ)

だけど…今夜は何となくこのモヤモヤな気持ちをどうにかしたくて―――
本当はそんなつもりはなかったのに、気がついたらプラクティスが終わって解散する時に、携帯をいじるフリをして啓介さんにメールした。

『これから時間ありますか』

送信して啓介さんの方を見ると、ちょうど啓介さんがジーンズの後ろポケットから携帯を出したところだった。そのまま見つめていると確認したのか、ちらっと俺の方を向いて口端を上げながら素早く指を動かしている。
…………あー、何かあぁいうとこもサマになるからよけい悔しい。
啓介さんが携帯を閉じた瞬間、俺の携帯はメール着信を告げて震える。
慌てて取り出して画面を見れば―――

『拓海のために空けてある』

相変わらずクサい言葉を平気で吐くよな…と半分呆れながら視線をあげれば、口端に煙草を銜えた、余裕ある表情をして啓介さんは俺を見ていた。
胸がきゅ、と締めつけられる。そしてその瞳に囚われる。
有無を言わさない、強い光を放つそれに。

(―――今まで、どれだけの女の人を、あの目でその気にさせてたんだろ…)

珍しく、普段は思わないような事を考えてしまった俺は、啓介さんから視線を逸らしてハチロクへととぼとぼ歩いていった。そんな事思うのはきっと、あのギャラリーの女の人達のせいだ、と自分に言い訳をしながら。そんな俺の背中はあの人の視線を痛いほど感じてしまっている。
こんなまだ、ギャラリーもDのメンバーもいるのに、俺の体はあの人の視線を浴びて物欲しげに疼きだす。
俺の奥底で燻る汚い何かを払いのけてくれる、強い腕を。


「………なーんか、機嫌悪くね?」

いつの間にか体勢を入れ替えられて跨っている俺を軽く揺さぶりながら啓介さんが訊いてくる。
…この人、おおざっぱそうに見えて、実は結構気がつくというかヘンにマメなところがあるから、俺が何かを抱えたままなのもどうやらお見通しなようだった。
そんなところも何か余裕あってムカつくから、俺ン中に突き刺さったまんまの熱い塊を締めつけてやると、啓介さんはクッと眉を寄せて唸る。

「っ、バカっ、出ちまうだろうが!!」
「……んなの、知りませんよ、あぁ―――っ、」

俺なりに精一杯冷たく言おうとしても、その途端に下からグイっと突き上げられて思わず背中を反らせてしまった。そのはずみで繋がった部分がぐちゅり、と卑猥な音をたてる。

「ンなかわいくねー事言ってンと、もっと啼かせちまうぜ?」
「っ、ど、…せ、俺は可愛く、ねー……っ…」

俺は、アンタを取り囲んでいるあのオンナノヒト達と違う。
性格も可愛くなんかねーし、丸みのある柔らかな体でもねーし、何よりオトコに抱かれて喘いでよがるオトコのどこがいいんだよ。
啓介さんが容赦なく与えてくる、もう何度目かわからないくらいの快楽の渦に飲み込まれそうになりながら、俺は何度も唇を噛みしめた。
ふいに唇に何かが触れて俺は閉じていた目を開ける。
男にしては珍しく綺麗な指先で、俺の噛みしめた唇を労るようになぞっているのが、涙でぼやけた視界に入ってきた。

「…………バーカ。そんな拗ね拗ねな拓海がいっちばんカワイイってのに」
「っ、何、だよ、拗ね拗ね、とか……ャっ」
「そのまんま、だろ。………今日はやけにイラついてンのはそれか」
「……………」

ふいに視界がベッドからぼんやりと薄暗い天井に入れ替わり、俺は何度か瞬きをして俺を貫く啓介さんを見上げた。

「昨日峠にいた、あの女達に妬いてた?何かやたらに声かけようとしててマジ鬱陶しかったんだけど」
「……………」
「あんなのに比べたら、拓海の方が断然いいに決まってンじゃん」
「あんなの、って……ひでぇ………」

啓介さんのあまりの言い草にさすがに突っ込んではみたけれど。

あぁ不思議だ。

こんな風に言われただけで、胸の奥に凝り固まっていた汚い何かがぽろぽろと剥がれ落ちていく。
自分はどっちかって言うと淡白で、そんなに嫉妬とかに縁はないと思っていたから(啓介さんにもそこは指摘されていたけど、俺は俺だしあんまり気にしていなかったし)

だけどそれでもどこかイヤだって思っていたんだ。

その人は俺の好きな人だから近寄るなよ、とか。
その人に触っていいのは俺だけだ、とか。

そんな人並みな嫉妬というヤツを、こんな俺でも持ち合わせていた事に大いに気をよくしたのか、啓介さんは俺の膝裏を持ち上げて、深く腰を進めてきた。
ぼんやりと考えてたため、油断して力を抜いていた俺は啓介さんのペニスが内壁を擦るのを感じて、思わずシーツを握りしめてしまった。

「―――ンンッ!ぁ、も、けぇす、けさっ……いきな…りっ…」
「でも、拓海はまったく心配する必要はねーよ。俺、心底お前に惚れてンし、でなかったら最初からあんなに口説かねぇっての………拓海もそうなんだろ?」

今のでよーくわかったぜ、と耳元で囁くと腰をグラインドさせだした。

あぁもう、何だってこんな俺様に惚れちゃったんだ。
でも。今更この恋はやっぱりなしです、なんてできない。
耳元で荒く息を吐き出しながら腰を動かしだした啓介さんの広い背中に、俺は思いを込めて手をまわし爪をたてた。どうしようもなく、この人に溺れてしまっている事を伝えるために。

Back

inserted by FC2 system